「カーボンニュートラル」という言葉に慎重になるヨーロッパ
- pakiraadtime
- 7月8日
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更新日:7月9日
近年、環境にやさしい企業活動や製品をアピールするために「カーボンニュートラル(Carbon Neutral)」という言葉がよく使われてきました。しかし、今、ヨーロッパを中心にこの言葉の使用に対して慎重になる動きが広がっています。それはなぜなのでしょうか?カーボンニュートラルという言葉の背景にある問題点と、それに代わって使われ始めている表現について、初心者でも分かりやすく解説します。

なぜ「カーボンニュートラル」が避けられるようになっているのか?
「カーボンニュートラル」という言葉には、一見するととても前向きな印象があります。「私たちはCO2を排出していません」「地球にやさしい活動をしています」といったイメージを与えるため、企業や自治体の取り組み紹介などで頻繁に使われてきました。しかし実際には、以下のような問題点が指摘されるようになってきたのです。
1. 実質ゼロ=“本当にゼロではない”
カーボンニュートラルとは、簡単に言えば「CO2などの温室効果ガスの排出と吸収・除去を相殺することで、全体として排出がゼロになっている状態」を意味します。
たとえば、
自社で10トンのCO2を排出したけれど、
森林保全活動や排出権(カーボンクレジット)を購入して10トン分のオフセットを行った
このような場合、「カーボンニュートラルを達成」と言えてしまうのです。しかし実際には、CO2は確実に排出されています。それを「帳消しにしたからゼロ」という考え方は、「実際に排出を減らしたわけではない」という点で、厳しい目を向けられ始めています。これがいわゆる「グリーンウォッシング(見せかけの環境配慮)」と呼ばれる問題につながるのです。
2. オフセットに過度に依存してしまう
多くの企業が「カーボンニュートラルを達成」と言うとき、それはオフセットに依存しているケースが非常に多いです。
オフセットの信頼性には大きなばらつきがあります。
本当にその森林は保全されているのか?
本当にそのプロジェクトは追加的なCO2吸収につながっているのか?
これらの疑問に対して、明確な証拠や根拠がないまま“ゼロ”と主張することが、消費者や投資家に誤解を与えるとされています。また、「削減の努力をせずに、お金で排出をチャラにする」という印象を与えかねません。EUや環境NGOは、「まずは実際の排出削減が最優先。オフセットは最後の手段にすべきだ」という姿勢を強めています。
3. 消費者の誤解を招くマーケティング表現
「カーボンニュートラルな〇〇」という言葉は、消費者に「この製品やサービスは環境に悪影響を与えていない」と思わせる力があります。
しかし実際には、
フライト(航空機)は大量のCO2を排出している
コンクリートの製造も非常に高い炭素負荷がある
にもかかわらず、「カーボンニュートラルなフライト」「気候に優しいコンクリート」と表現することで、実態を覆い隠してしまう危険性があるのです。
この問題を受けて、EU(欧州委員会)は2023年に「グリーン表示の信頼性強化」の方針を打ち出し、根拠のないグリーン表現(green claim)の取り締まりを強化しました。つまり、「気候にやさしい」と謳うなら、それを裏付ける科学的根拠と透明性が求められる時代になったのです。
「カーボンニュートラル」の代わりに使われている表現
では、これからの時代には、どのような表現がより適切とされているのでしょうか?実際にヨーロッパで見直されている用語とその背景をまとめます。
従来の表現 | 見直し後の表現 | 補足 |
カーボンニュートラル | CO2排出削減中(Reducing Emissions) | 実際に削減していることを明確にする |
クライメートニュートラル | ネットゼロ(Net Zero) | 排出と吸収のバランス達成を目指す |
グリーン製品 | 低炭素製品/LCA評価済み製品 | 科学的根拠に基づく環境配慮の明示 |
これらの表現は、「実態に即した、誤解のない伝え方」として今後さらに重要になります。
企業にも“言葉の透明性”が求められる時代
「カーボンニュートラル」という言葉は、決して悪い言葉ではありません。しかし、その使い方によっては、企業の信頼を損ねたり、誤解を招く結果になったりします。ヨーロッパでは今、環境配慮に本気で取り組むのであれば、
「排出量の可視化(スコープ1,2,3)」
「実際の削減行動の開示」
「科学的根拠にもとづいた環境表示」
こうした情報開示がますます重視されるようになっています。
GXを進める方へ
もしあなたの会社や自治体がGXに取り組んでいて、「伝え方」に悩まれているなら、無理に「カーボンニュートラル」という言葉に頼らなくてもよい時代です。
CO2削減への取り組みの過程を丁寧に発信する
スコープ別に見える化し、着実な削減目標を公表する
実際の取り組み例や成果を行動ベースで紹介する
こうした誠実で透明性ある発信こそが、信頼されるブランドや組織をつくる鍵となります。
今後の気候変動対策とビジネスのあり方を考えるうえで、「言葉の使い方」はとても重要です。私たち自身も、受け手として情報の本質を見極め、発信者としても誠実な言葉を選んでいくことが求められているのかもしれません。


